[พ]映画「ランド・オブ・ザ・デッド」/巨匠ロメロが放つ掟破りのゾンビ映画 @kun_maa
ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロ監督の2005年公開作品。
世界中にゾンビが蔓延した社会。死者は蘇り生者を喰らう。
そしてゾンビに噛まれた生者もゾンビへと化し、またゾンビが増加していく。
舞台はそんな近未来のアメリカ。
一部の富裕層はタワービルの中で以前と変わらない生活をしており、それ以外の人々はビルの周囲に作られたフェンスに囲まれたスラム街で貧困層として暮らしている。
街の名前はフィドラーズ・グリーン。タワービルもスラム街も牛耳っているのは、カウフマンという男。
富裕層の生活を支えるための物資は、貧困層の傭兵たちが既に壊滅した都市を襲って、略奪をしている。
登場するゾンビたちは、なぜか生きていたときの微かな記憶に従っているようで、楽器を演奏している者や仕事をしていた時の行動を繰り返している者もいる。
動きは緩慢で、伝統的なウスノロ系。走るゾンビはロメロ作品には似合わない(あ!ドーン・オブ・ザ・デッドは除く)。
傭兵たちは装甲車「デッド号」やバイクを使うガラの悪いヒャッハー系で、まるでマッドマックスや北斗の拳の世界を思い出させる。
彼らは、ゾンビたちをまるで恐れず、楽しむかのように虐殺していく。
ヒャッハーな奴らがゾンビを虐殺するシーンは、ロメロのゾンビ映画に共通するメッセージである「人間の残虐性」を体現している。
ところで、ゾンビと言えば意思は存在せず、感情もない。したがってゾンビ同士での意思疎通は不可能であり、すべてのゾンビが平等でリーダーは存在しないというのが鉄則だ。
この作品は、そんな鉄則を覆す掟破りのゾンビ映画だと言える。
なぜか。
この作品に登場するゾンビには、意思と感情を持ち、他のゾンビと意思疎通ができるリーダー格のゾンビが登場するからだ。
そのリーダー格のゾンビに率いられて、他のゾンビたちもフィドラーズ・グリーンのタワービルを目指す。
リーダー格のゾンビは、銃やガソリン、工事道具や火炎瓶まで使いこなす超人ゾンビだ。果たしてこいつをゾンビと位置づけていいものかと迷うほどに人間的なゾンビ。
こいつの影響なのか、他のゾンビたちも次々と学習して進化しているように見える。
変わらないのは、人間を喰らうことだけ。
ゾンビのお食事シーンはさすがによくできている。
すでに述べたように、この作品がゾンビ映画として掟破りな点は次の2点。
①ゾンビにリーダーが存在する。
②ゾンビが意思を持ち、学習して進化していく。
そんな掟破りのゾンビたちと、傲慢で身勝手な富裕層、富裕層との格差に不満が爆発する貧困層。この3者三つ巴の状況の中、事態は混乱し、不平等な社会は崩壊へと突き進んで行く。
とは言え、ゾンビの怖さはあまり感じることはない不思議な作品だ。
人間同士の醜い確執が中心に描かれているためだろうか。
それとも、登場人物たちがそれほどゾンビを恐れていないせいかもしれない。
掟破りのゾンビが登場する割には、ゾンビはあくまで脇役という感じが否めない。
不平等ながらも社会化していた人間たちの末路と、虐げられていたゾンビたちによる自らの権利を求めるかのような蜂起と社会化。
皮肉な要素をたっぷりと盛り込み、現代社会への風刺を含むロメロらしいと言えば、ロメロらしい作品である。
しかし、ゾンビ好きには微妙な違和感と物足りなさを感じさせるかもしれない。
僕がそうだったように。
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